コトハ×コトハ

2.偽りは秘密を隠す – 03 –


自然と熱くなる身体。
満たされる幸福に歓喜する。

配達が終わり、帰宅するとシャワーを浴びた。
せっかく暖まった身体が冷たい水で冷やされる。けれど、身体を流すのは気持ち良い。身体全体を流すと、身体をタオルで拭いた。

昨日はやる気がなかったから、制服は床に散らばっている。
公立のくせにブレザーな私の学校。だから毎日、シャツを変えなくてはならない。かなり面倒だけれど、併用すればすぐに汗臭くなる。それは絶対嫌。
アイロンをかける暇はないから、布団の下に綺麗に敷いて皺を取っている。シャツを布団から出してみると、案の定綺麗に仕上がっていた。
小さな満足感を抱きながら、袖を通し、布団から玄関に続く着替えの道を辿る。
部屋干ししている黒い靴下を洗濯挟みから外し装着。あとは床に落ちてるものを拾って着るだけ。
小豆色のリボンに、ベージュのベスト、グレーのスカート。最後にブレザーと鞄を持てば、眼の前には玄関。
ミサエさんのお弁当を鞄の中に入れて、靴をはくと、家を出た。

まだ乾いてない髪に風が撫でると、寒気がした。
ぼんやりと、ちゃんと乾かせば良かった、と後悔しながら、学校へ向かう。
学校まで歩いて30分。
時間がかかると言えばかかるけど、のんびりとぼーとしながら歩くのは結構気持ちが良い。
今は生乾きの髪のせいで寒いけれど、配達の時とは違い太陽が出た外は結構温かかったりする。
こんな時、太陽ってすごいなぁとか思う。
あるとないでは大違い。
何ものも太陽の下に新しいものはない。って、誰かが言ってた言葉があるけど、本当だと思う。
太陽の暖かみがあるから、今私は居るんだ。

――――って、なにを語ってるんだろう、私は。

なんだか、最近よく考えるようになったんだ。
もちろん、心の中に留めてるけど。でも、なんだか、ふとした時に思う。

………歳、かな?

あ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
まだ、17なんだけどなぁ……。

「言羽ちゃん、おはよう」
「あ、おはよう」
よくある挨拶。
同じクラスの浅間さんだ。
彼女が横切ると、ふわふわとした良い香り。いつもより今日は少し色っぽい香りがした。
一つ一つの行動が色っぽい浅間さんにはピッタリな気がする。
そんな事を思いながら、昇降口で上履き――と、言ってもスリッパだけど――に、履き代えた。

今日の洋介君は、2限目からの登校だった。
いつも遅刻の常習犯である彼は、遅れて入って来ても、特別誰かに咎められる事はない。そして、誰かに絡まれる事もない。

いつものように自分の席に座ると、洋介君はルーズリーフを取り出して手に0.3のシャーペンを持って、窓から外を眺めはじめた。
1年の時から変わらない洋介君の日課。
そして何故か1年の時から変わらない窓側の1番後ろの席。個人的にこれは学校の七不思議に入れても良いと思う。

まだ授業始まってないのに、絶対に洋介君はあの体制。授業が始まってもあの体制。教室移動の時も移動せずに、あの体制まま。
そういえば、洋介君が体育を受けてる姿や実験をしている姿を、見た事がないかもしれない。
そして、授業が終わると何も書かれていないルーズリーフを鞄しまって、シャーペンをブレザーの胸ポケットに入れると、HRを待たずに帰宅する。
洋介君がHRを受けずに帰った事を知る度に担任が悪態をついているのを彼は知ってるのかな――。

「――――ありがとう」
「あ、う、ううん。全然良いよ」
火曜、水曜と――土曜日に、私は洋介君のお店にバイトに来ている。
土曜日以外は、滅多にお店で姿を見る事は無いのだけれど、今日は偶然洋介君の姿を見付ける事が出来た。
今日の帰りのHRで言っていた事を伝える。
普段は教えないのだけれど、この連絡はしておいた方がいいと思ったから伝えた。洋介君は少しだけ笑って感謝の言葉をくれた。
「じゃぁ仕事に戻ります」
お礼を言う時は必ずする笑顔なのに、何度も経験してるのになんだか慣れない。
普段笑わない人だからから?
顔が熱くなったのが解ったから、すぐにこの場から去りたかったけれど、
「あぁ――あ、三笠」
洋介君に声で引き止められた。
「な、に?」
ドキッと心臓が跳ね上がる。
「あさ―――いや。なんでもない。また明日」
手を軽く挙げると、洋介君は店の事務室へと入って行った。

―――……?

洋介君には珍しい、曖昧な言葉。
あさ―――朝がなんなんだろう?

しばらく首を傾げて考えてみたけれど、すぐに先輩に呼ばれたので、考えるのを止めた。

バイトが終わり、家に帰る時にふと思い付く。
もしかして、新聞配達?


««