世界の終焉十題・遺

名誉だなんて思えないわ


―――彼は、名誉ある死を迎えた。

彼の葬る場で、彼の同僚、彼の友人、彼を知るすべての人にそう慰めの言葉をかけられた。
最期を見た人は、彼は襲われた姫を敵から守って死んだらしい。
それを、みんな名誉ある死を迎えたと、彼を称え、私を慰めた。

名誉のある死とはなんなのだろうか。

私たちは、生まれてからずっと一緒にいた幼馴染で、出会ってから過ごした時間は長い。
でも、一緒になってからは、まだ3年しか経っていない。
素直になれなかった時間よりも、お互いに思いを通わせ、愛し愛された時間はたった3年しかないのだ。

―――人は言う。
きっと、姫が未来に生まれてくる子供と重なって、咄嗟に動いてしまったのだろうと。

ならば、なぜ未来に生まれてくる子供を守ってくれないのか。
私と生まれてくる子供は、彼にとって守らないくていい存在だったというのか。

―――人は言う。
きっと、彼も姫を守れて満足しているだとうと。

私を1人にして、私と子供を残して、何を満足というのか。
彼は私を幸せにして、私との子供を愛さなければならない、それが完遂できてこそ、満足できる立場ではないのか。

―――人は言う。
彼のおかげで、姫は軽傷ですんだから、王様から報奨金がでるだろう。
きっと、彼女たちもその報奨金があれば幸せに生きることができる。

私1人で何が幸せだというのか。
お金があれば苦労はしないかもしれないが、幸せになれるとは限らない。
彼がいないのに、彼のいない世界なのに。

彼は名誉ある死を迎えた。

なんと呪われた言葉なのだろうか。
残された私は全く名誉ある死だとは思えない。
死ぬのならば、這いつくばってでも生きて戻ってきてほしかった。
世界中から裏切り者と、姫殺しと後ろ指刺されてでも、戻ってきてほしかった。

なぜ先にいってしまったの。

私はあなたのいない世界に生きたことがないの。

どうやって生きていけばわからないの。

知らない世界で、ひとりになった私は、
あなたの死を名誉という人を、国を、世界をどう愛して、どう生きていけばいいの。


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